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2024.7.18
地階を彩るアート
── 杉本博司
設計: 新素材研究所
Photography: Masatomo Moriyama
アートは和光のDNAに深く刻まれています。
和光の名前の由来は、前身となる服部時計店で1930年代に
定期的に開催されていた美術展「和光会」にあるとされています。
その後も展覧会の開催やフロアでの美術工芸品の販売を通じて、
和光は常に唯一無二の美意識を有する作家たちを紹介してきました。
本店地階 アーツアンドカルチャーでは、そうした自らの伝統を受け継ぎ、
現代に生きるアーティストの作品を展示します。
杉本博司による2つのシリーズ
現在、本店地階 アーツアンドカルチャーでは、現代美術作家・杉本博司氏の作品を展示しています。
歴史と存在の一過性をテーマとし、時間の性質、人間の知覚、意識の起源を探求する杉本氏の作品は、その明確なコンセプトと卓越した技術が高く評価され、メトロポリンタン美術館(ニューヨーク)やテートモダン(ロンドン)をはじめ世界中の美術館で所蔵されています。
今回は、杉本氏の代表的なシリーズ「海景」から1点と最新シリーズ「Brush Impression」から2点を展示します。
「海景」シリーズ(1980‒)

バス海峡、テーブル岬
1997年
ゼラチン・シルバー・プリント
「古代人が見ていた風景を現代人も見ることは可能なのだろうか」という問いを起点に、水と空気のみで構成されるイメージを、世界各国の海や湖で撮影したシリーズ。 水平線が空と海に画面を等分し、船や岩礁はもちろんのこと白波すら排除され、白と黒の無限の階調の中で表現されるシンプルな風景は、見るものに非常に強い印象を与えます。 杉本氏は「海景にはその発生現場の意識を現代に再び喚起させることができるような力が潜んでいるような気がする」と語っています。
「Brush Impression」シリーズ(2022‒)

Brush Impression 1229「和」
2023年
ゼラチン・シルバー・プリント

Brush Impression 1230「光」
2023年
ゼラチン・シルバー・プリント
暗室の中で現像液や定着液に浸した筆で印画紙に書を揮ったシリーズ。 使用期限の過ぎた印画紙に、墨を使わずに現像液や定着液で漢字やひらがなが描かれています。 暗闇の中で綴った印画紙の表面を横切る大きな筆跡は、飛沫、泡、筆の跡を生み出し、文字は白や黒、暖色など豊かな彩色に色づきます。 杉本氏は制作の過程について「見えない文字に精神を集中させ、その文字の意味の発生現場に想いを馳せて書に臨んだ」と語り、本作で「本歌取り」の解釈を広げて漢字やひらがなの起源を考察しています。
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杉本博司(Hiroshi Sugimoto) / 1948年東京都生まれ。 1970年に渡米、1974年よりニューヨーク在住。 活動分野は写真、建築、造園、彫刻、執筆、古美術蒐集、舞台芸術、書、作陶、料理と多岐にわたり、世界のアートシーンにおいて地位を確立してきた。 杉本のアートは歴史と存在の一過性をテーマとし、そこには経験主義と形而上学の知見をもって西洋と東洋との狭間に観念の橋渡しをしようとする意図があり、時間の性質、人間の知覚、意識の起源、といったテーマを探求している。 作品は、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)やポンピドゥセンター(パリ)など世界有数の美術館に収蔵。 代表作に『海景』『劇場』『建築』シリーズなど。 2008年に建築家・榊田倫之と建築設計事務所「新素材研究所」を設立。 2009年に公益財団法人小田原文化財団を設立。 2017年10月には構想から20年の歳月をかけ建設された文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」をオープン。 2011年に自然と人間の象徴的な関係を探究・維持するため江之浦測候所の隣接地に農業法人「植物と人間」を設立。 主な著書に『苔のむすまで』『現な像』『アートの起源』『空間感』『趣味と芸術-謎の割烹味占郷』『江之浦奇譚』『杉本博司自伝 影老日記』、榊田倫之との共著に『Old Is New 新素材研究所の仕事』。 1988年毎日芸術賞、2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2009年高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞。 2010年秋の紫綬褒章受章。 2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲。 2017年文化功労者。 2023年日本芸術院会員に選出。